週刊シネママガジン作品紹介レビューマトリックス・リローデッド、ほか
マトリックス・リローデッド
★★★★★
 


通常バージョンと、IMAXバージョンの二種類があるが、IMAXバージョンを見ることが大前提である。IMAXでは必然的に日本語吹替になるが、たとえ原音を犠牲にしてでも、見ておく値打ちがある。
登場人物の毛穴の脂汚れまでもくっきりと映し出すその巨大画面では、遠近法の効果も生きてくる。観賞者の視界は映像に埋め尽くされ、画面端に写った登場人物を見るためには、首を左右に動かさなければならない。かつてこれほど首を使う映画があったろうか。それはまるでバーチャル・リアリティを体感しているようである。また作品自体もバーチャル・リアリティをテーマにした物語であるため、登場人物が仮想世界に入ったとき、観賞者の方もつられてその世界へ入ったように錯覚してしまう。これはすさまじく衝撃的な体験である。
この作品における仮想世界とは、我々の住んでいる世界に等しいが、それをいかにも「作り込まれた世界」ぽく演出しているところが圧巻である。仮想世界は広大であるが、それなのに閉ざされた印象を与えているのである。現実世界への出口は一カ所しかないこと、どこに行こうともすぐ側に敵が潜んでいることが、さらにその印象を強めていく。大画面に広がる壮大な空間の視覚的な刺激と、閉じこめられているような精神的圧迫という対極するこの二つの異様なフィーリング。これがただものではない。

シカゴ
★★★1/2
 


ミュージカル映画は、元来不気味なものである。会話中いきなり歌い出し、登場人物たちがまるで示し合わせたかのように段取りよく踊り出す。ミュージカルに必ず付き物のこの「不気味さ」を、スタイリッシュに活かして見せたのが「シカゴ」である。本作は、歌のシーンになると、いつの間にか背景までも派手なセットに入れ替わる。やるからにはやろうと開き直っているようで、本作のレビュー・シーンはできうる限り「それらしく」大袈裟に飾り立てられている。反対に、歌のないシーンは、冷たいタッチである。
主な舞台は刑務所だ。囚人は歌うことで刑務所の外に出た心地になるが、喝采を浴びるや、たちまち牢獄に引き戻される。歌うほどに自分の価値は高まるのに、同時に虚しさがおしかぶさる。ストーリーの表と裏をはっきりと色分けし、ちょうど表の部分をレビューでみせているわけで、従来のミュージカルにみられた「不気味さ」が、本作では重要な意味合いを持つことになった。裏から表への、そのなめらかなる場面転換の一瞬に、このドラマのすべてが集約されているのである。

チャーリーズ・エンジェル
フルスロットル

★★★
 


最近の映画のはやりは、ワイヤーやCGなどを駆使して、主人公が常識では考えられないとんでもないアクションを見せることである。ウソだと思っていても、観客は刺激と快感を求めて、そういった作品を見に行く。「チャーリーズ・エンジェル」は、それらと同じたぐいであるが、複数の女性たちが主演しているところに意味がある。
最近のメジャー作品に足りなかったのは女の活躍だった。次々と衣裳を替え、無茶苦茶なアクション・シーンを熱演するキャメロン、ドリュー、ルーシーの愛くるしさ、そしてデミの大人の魅力は、観客が渇望していたものを充たしてくれる。ダンスの振り付けのバカさ加減といい、その勢いだけで観客を乗せてしまう卑怯な戦術は、最後まで悩む余地を与えない。野郎だらけのアクション映画では決して得られない幸福感。もはや、ギャルたちがただキャーキャー騒ぐだけでも観客は喜んでくれる。そこにちょっぴり見え隠れするドリューの哀愁は、見終わった後、唯一の余韻を残す。
ひとつ不満を述べれば、一作目では無邪気に見えたおバカ騒ぎが、二作目ではあざとく見えてしまったことだ。

ブロンド・ライフ
★★★
 


表向きは、美人キャスターが自分を見詰めながら出世していく女性映画だが、その見方はあくまで女性の立場からのものであって、男どもの立場から見ると、いわばこれは欲求不満奮闘記である。
職場でいつも会っている男と女。この女が妙に性欲をそそる。男はこの女に一度振られているため、女のことは少し憎たらしいのだが、それでも毎日会っているから、なんだか気になってしまう。男は何としてもこの女を一度だけでいいから抱きたい。そんなある日、女は一週間後に死ぬと予言される。タイムリミットはあとわずかだ。なんとしてもモノにせねば。しかし女は死を目前にしても男にはいっこうに振り向かない。減るもんじゃねえし一発くらいやらせろ。腑に落ちない気持ちが男の顔に正直に表れる。いっぽう女の方は、男に気があるのか無いのか、まるで顔に出さない。さて、男はいかにしてこの鉄壁を破ることができるのだろうか。つまりは精力促進映画である。当然、その達成感を疑似体験できるサービス付きだ。
クライマックスでは、案の定、男は女のことを愛していることに気づく。せめて一発という願望が恋へと発展するマジックを、この映画は実にバカ正直に活写している。

2003年8月18日