■ミュージカルはミュージカルでなければならない

 ミュージカルは68年の「オリバー!」を最後にして、ほぼ映画界から消えたといってもいい。完全に消えたというわけではないが、たまに作られるミュージカルは本当にミュージカルと言えるものではなかった。本当のミュージカルというものは、色鮮やかで、情熱的で、きらびやかでなければならないのである。街のみんながいっせいに踊ったり、空に花火があがったり、それがミュージカルなのである。「ムーラン・ルージュ」はそのすべての要素を備えている。

 本作は実に映画ファンにとってはありがたい一本である。まず目を奪われるのがその色彩感覚である。カラフルで美しく、それはひと昔前の総天然色映画を思わせる懐かしさがある。赤青黄の原色のダンサーたちがカンカンを踊っているのを見たときにはつい嬉しくなる。
 丹念に作り込まれた町並みのセットも素晴らしい。往年のミュージカルと同じく、作られた空間そのものが劇的効果になっている。世界観を臭くて嘘っぽいものにして、わざと現代社会から遠く切り離しているのもポイント。そこで様々な時代の音楽を混ぜて使うことで、時代を超越した普遍的なラブ・ファンタジーへと昇華させている。圧巻は夜、ホールの屋上で愛を語り合うシーンである。2人がウィングスやドリー・パートンの名曲をメドレー形式で交互に歌い、歌詞がそのままダイアローグとなる。映像と音楽はこの上なくロマンチックである。

 オリバー・ツイストの物語を華麗なミュージカルにアレンジしたとき、そのタイトルを「Oliver!」と銘打ったように、ムーラン・ルージュの物語を華麗なミュージカルにアレンジした本作は「Moulin Rouge!」と銘打ち、往年のミュージカルをマルチメディア時代の解釈で大げさなまでに、ここに復元させた。まさに「!」な作品なのである。しかし日本では情けなや、感嘆符を取り除いて単に「ムーラン・ルージュ」としてしまった。原題の感嘆符がどれだけ重要なのかを何もわかっていないのである(もっとも、ムーラン・ルージュという言葉自体に華やかさがあるにはあるが)。

 「ミュージカル」という言葉で言えば、申し分ないが、それだけでしかないのが惜しい。たいして重要でないカットにも不必要に特殊効果をかぶせたことが、せっかく作り込んだ幻想世界の魔力を弱くしているのも気になる。しかしヒット曲をふんだんに使って、ミュージカルを何も知らない観客たちに、モノホンのミュージカルの劇的魅力を教えこませた手柄は褒めたい。バズ・ラーマンの野心は、しかと受け止めさせてもらった。将来彼が大監督になったとき、きっと本作も再評価されることを予知しておく。

2001年/20世紀フォックス映画

<製作・監督・脚本>
バズ・ラーマン

<出演>
ニコール・キッドマン
ユアン・マクレガー
ジョン・レグイザモ

(第99号「レビュー」掲載)

Moulin Rouge名作一本 No.70
「赤い風車」
1952年米=英映画

 有名な画家トゥールーズ・ロートレック(1864-1901)の生涯を軸に、19世紀末期のパリがどのような街だったのかをスクリーンに再現しようと試みたジョン・ヒューストンの意欲作が「赤い風車」です。
 僕が一番見てもらいたいのは、なんといっても序幕の躍動感あふれるフレンチ・カンカンの映像です。ロートレックの広告画そのままのダンサーたち(可愛いおばちゃんたちです)が登場し、テクニカラーの鮮やかな色彩が、当時の迫力をそのまま映し出しています。カット割りは、意外と少ないです。また、ロングショットやクロースショットなど、カット同士のアクションの流れを統一させているので、カットのつなぎ目を意識させません。これが本当のダイナミック・カッティングです。
 最初にあれだけ華やかに見せた後、ロートレックが実は身障者だということが静かに映し出されますが、このワンカットは衝撃的です。それから後はロートレックの哀れな日々が湿っぽい映像で残酷に描かれていきます。結末は非常に悲劇的なのですが、ヒューストンはあえてその結末を華やかに描いて見せます。華やかであることが、よけいに悲しさを募らせます。

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