アザーズ
★★★★
  「ヘルハウス」の系統であることには違いはないはずだが、見せ方はまったく新しく、生理的な恐怖感がある。大きな屋敷、ローソクの火、 古い絵画などは、それだけでもドロドロした肌寒さがあるが、下手なトリックや大音響の威かしは無しに、あくまで雰囲気だけで見せているところが宜しい。僕が一番怖かったのは、少女が描いた絵である。おばあさんの髪の毛の筆の線の形状が生理的に気持ち悪く、鳥肌ものだった。
主演のニコール・キッドマンもなかなか良い。どこか人間離れした不思議な表情を見せていて、何か生理的な不安定感を与える。やたらと部屋の鍵をしめるのだが、この行為がうまい具合に真相の辻褄を合わせていることにも感心。終わった後に残る何とも言えない物悲しさも良い。ホラー映画というものは元来はとても悲しいものなんだね。
ピンポン
★★★★
 

これはウマイ。青春映画としてもきちんとまとまっており、ストーリーの見せ方など、緻密に計算されていて、とてもセンスが良く、幾分か臭すぎる展開でも、そこをとことん派手に見せることで、勢いで観客に受け入れさせている。
卓球というスポーツには地味なイメージがつきまとう。球が小さくて軽いのがその要因だと思うのだが、そんな球に、若者たちの青春を凝縮させて表現させた荒技には拍手だ。ただ普通に球を撮っては表現力に欠けるので、移動キャメラやスローモーション、CGなどを駆使して、ソリッド(solid = 固体の, 中身の詰まった, がっしりした)な映像に仕上げている。似た物に「少林サッカー」があるが、サッカーがサッカーじゃなくなったあちらとは違い、こちらは卓球の持ち味はそのままに、卓球を通して若者たちの青春面をエネルギッシュに具現化して見せたところが良い。卓球というスポーツを尊重しており、卓球が男と男の命がけの真剣勝負だということを教えてくれる。だから「少林サッカー」よりも説得力があり、真面目でかっこいいのである。

オープン・ユア・アイズ
★★★★
  映画を作るとき、正統派で見せるか、違う切り口で見せるか、それは作り手の自由である。本作の監督アメナバールは、後者の部類に属する人で、ストーリー構成の基本を裏切って、本作を不思議な感覚のSF映画に仕上げた。いや、ここでSFと言ったのはまずかった。この監督は本作がSF映画であることすらも隠しているからである。まずは普通にインタビュー形式のサスペンス映画として描いているのだが、しだいに不思議な感覚を見せていって、だんだんとストーリーを現実から切り離していき、ようやくラストで本作がSF映画だということを観客に気付かせる。これは実に大胆な見せ方で、これほど構成を根っこから裏っ返してしまった映画も珍しいだろう。まだ監督が素人ぽいせいか、演出に少し締まりがないが、着想の意外さはおおいに認めるべきである。この監督の期待は大きい。これからどんなマジックを我々に見せてくれるのだろう。
マジェスティック
★★★1/2
  フランク・ダラボンは最近の監督では僕がもっとも関心をよせている監督である。毎回キャストを一新して、一本一本丹念に作るところが気に入っている理由だが、「マジェスティック」もまた冷静かつ丁寧に作られていて、僕はこの監督がますます好きになった。ダラボンの映画は非常に落ち着いた感じがある。わりかしローテンポのストーリーをじわじわと見せていくタイプで、見終わった後の余韻がまた良い。それにしてもダラボンの映画に出た役者はみんないい。「オペラハット」のクーパーを思わせる質素なスタイルで決めたジム・キャリーもこれで更に好感度が上がった。まったくこいつはなんでもできる奴である。
赤狩りを題材にしたことも興味深い。赤狩りと聞けば映画マニアならピンとくるはずだが、それがどういう事件なのかは漠然としか知られていなかったので、僕もとても勉強になった。重大なのにあまり知られていない事件を描くことで、時代色がうんと高まっており、そのムードを楽しむというだけでも点数は高い。このムードは50年代初頭の映画を見るのとは全然わけが違う。今の撮影機材で、あえて50年代初頭の時代を写し出そうとしているからこそ、そこに郷愁感が醸成され、時代の匂いを感じさせるのである。キス・シーンもこの時代色のお陰で美しい映像になった。
G.I.ジェーン
★★★1/2
 

デミ・ムーアが海軍に入るという強烈なるフェミニズム映画。大きく分類して三部構成で、第一部は猛特訓編、第二部は政治問題編、第三部は戦地実践編である。おもしろいのは第一部。丸刈りはまだまだ序の口、すごいのはどんなに殴られても蹴られても立ち上がるすさまじさ。フェミニズムがときとしてマゾヒズムと勘違いしてしまうほど際どいシーン多し。どんなにひどい顔になってもデミが美人のままであるところに、彼女なりのスターの意地を発見できる。
政治家を演じたアン・バンクロフトもよく、二人のフェミニストのぶつかりあいは男性の目にも興味深い。
これまでにも軍隊の訓練風景を描いた映画はあったが、この映画ほど厳しさのある映画はあるまい。訓練所での鐘の描き方は映画話術のお手本といってよく、音が心理描写を兼ねるうまい演出である。
ただ、第一部が鬼気迫る内容だったため、第三部の実践編となるとあの孤独感がなくなって幾分か興醒め。ラストは妙に「ブラック・レイン」に似てる。

ウォーター・ワールド
★★★

 

客観的に言ってしまえば、あまりオススメできる映画ではないが、僕個人的にはアタリだった。すごい大金をかけて作ったわりにはセットなどが妙に安っぽいのだが、陸地が無くて海だけという世界は、我々の世界とはまるで別世界で、宇宙もののSFよりもカルト的な新鮮味がある。またケビン・コスナーが無敵の怪物人間というところもヒーロー伝ぽくてよく、デニス・ホッパーとライバル関係になって、何度も何度もこりずに戦うところが、昔の連続テレビムービーみたいで、B級マニアである僕はとても惹かれた。見渡す限り海、見上げれば雲ひとつない空、こんな映像が男心をくすぐるのである。

 

http://cinema-magazine.com
第114号掲載