アイス・エイジ
★★★★
  この映画を見終わった時には衝撃が走ったものである。ストーリーはそれこそ単純で、スラップスティックもくだらないものばかりだが、しかし内に秘められた哲学だけは興味深い。この哲学にのめり込んでくれるかどうかがこの映画を受け入れられるか否かを決定する。これはぜひ気持ちをぐっと構えて見て欲しいものである。
この物語は、昔々、ほんとうの大昔、氷河期の物語である。親とはぐれた人間の赤ん坊を拾ったマンモスたちが、赤ん坊を親元に届けるために旅に出る話である。まったく種別の異なる動物たちが協力しあって旅をするのだが、どんな困難が立ちふさがろうとも、持ち前のガッツで乗り越えていく。この図式は「オズの魔法使い」に共通するが、主人公たちが皆マンモスやサーベルタイガーといった、大昔に「絶滅した生き物」であることがドラマをより味わい深いものにしている。ただ一人の赤ん坊を親元に返してやろうという、自分らには何の利益もないことに一生懸命になるところにスピリッツがある。それだけのためにどうして命がけであそこまでやれるのか考えて欲しい。そして最後には躊躇せずに天敵である人間に赤ん坊を返した絶滅動物たちの後ろ姿をじっくりと見てほしい。世の中はちっぽけではかないものだが、しかし生きているからには何かをやらなければならない。この哲学感がこの映画を美しい大作にしている。
映像もまさに美麗グラフィックで見応え充分。CGには見慣れている観客にも新鮮な感動があるのに違いない。動物たちの質感、動作もいいが、余計な飾り付けを一切排除して、登場人物皆がちっぽけに感じられるほど壮大な広がりのある神秘的な白銀の映像には未だかつてない衝撃を覚えた。
アイ・アム・サム
★★★★
  7歳の知能しか持たないパパが、自分よりも頭のいい娘の養育権をめぐって法廷で戦う社会派ドラマである。これはもうストーリーについて話すよりも、ショーン・ペンの演技を何よりも誉めたい。彼の演技に評価プラス1である。台詞も面白いし、とてもかわいい。ときとして、娘のテディベアのように見えてくることもある。それくらいかわいい演技だった。頭が悪いために、自分の気持ちがうまく伝えられず、色々なことを考えて頭がパンクしそうになって、ひたすら「考えるんだ」と自分に言い聞かせながらも、どうすることもできない様子が、涙ぐましいくらい伝わって共感させられる。
ビートルズの話題を出しているのもマニアにはたまらない。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」ほか、劇中流れる曲のすべてがビートルズナンバーというところも思い切ったところで、しかも後期の曲が中心というのがマニア心を揺さぶる。あえて全曲カバーで攻め、オリジナルは一切使わなかったことには理由があったに違いない。前期ビートルズ作品が60年代向けで一発録音のシングル志向だとすると、後期ビートルズ作品は、時代普遍的でじっくりと練り込まれたトータルコンセプトアルバム志向だといってよく、曲単体だけ聴いても本来の価値が発揮されず、コンセプトから逸脱したベスト盤(青盤)のせいでますます後期を理解できない人間が増えていくばかりだったのだが、そこで本作はカバーという解決策を投じて、90年代風オルタナティブサウンドにアレンジした。こうした方が作品の雰囲気にもマッチするだろうし、まだビートルズを知らない人にもわかりやすかったのだろう。
ついでだけど、ミシェル・ファイファーはますますきれいな女性になった。往年のハリウッド女優にも似た風格も見せて、好感度急上昇である。彼女の演じる役名がハリソンというのも、ジョージ派の僕としては大満足っす。
少林サッカー
★★★1/2
  これは面白い。ただストレートにクンフーだけを見せたスタンスに共感。サッカーというごくごく身近なスポーツに、クンフーという一般人には解明されていない拳法を融合させてしまうアイデア。クンフーがまだまだ未知なる領域の要素であるから、サッカーという身近なものまでも未知なるものとして戯画化することができる。蹴ったボールが凄い勢いで跳んでゴールに入る、ただそれだけでもゾクゾクくるものがあるが、さらにボールが燃え出したり、風圧で地面が隆起したり、握力でゴールポストが歪んだり、これでもかというほど大袈裟で気の利いたセンスにも感心。内容が単純ゆえ、オーバーな映像にも厚みがでてくるのである。
何か最近の映画に物足りなさを感じている観客たちも、ここまでカツの利いた映像を見せられて、さすがにせいせいしただろう。恋人とはこういう映画を見たいものだねえ。
シュレック
★★★1/2
 

パロディ型ナンセンス・コメディは、ハリウッドが苦手としているジャンルのひとつであり、今までにどれだけ駄作が作られてきたかわからない。失敗の理由として、芸術家および実業家を自任する映画作家たちがナンセンス・コメディにあまり価値を見いだしていないことにある。ナンセンス・コメディは観客への訴求力は大きいが、その期待にこたえられる映画作家がハリウッドにはいなかったのである。しかし近年の目覚ましい3DCGアニメブームの波にのれば、うまいぐあいにデジタル・キャラクターがナンセンス・コメディにマッチしてくれるのではないか?という結論に達してか、ここに「シュレック」が完成した。声優には人気スターを起用し、まさに超一流の作品に仕上げており、近年のCGアニメとしては最も目覚ましい成功を収めた作品である。
「パロディ」というカテゴリーは、難しい上にジンクスも多く、責任感さえ伴うのだが、この醍醐味を見事にモノにしている。ピノキオや赤ずきんなどのモチーフがいたるところに盛り込まれて、これがまた実に巧妙な見せ方で巧い。下手なナンセンス・コメディにありがちなあのどうしょうもない無駄な間もなく、エディ・マーフィをはじめ、トンチのきいた台詞の吸引力もなかなかのもの。
しかし一番の美点は痩せているフィオナ姫のグラフィックである。あのきめ細やかな表情と、あの愉快なしぐさ、重量感を感じさせるムーブメント(おそらくモーション・キャプチャーだろう)は、ディズニーの白雪姫の映像を見たとき以来の衝撃だった。アニメにありがちなゴム人形のような動きではなく、あくまで人間らしい動きを残しつつ、アニメ的な笑いを提供するフィオナ姫の存在感は確かなものである。ゆえに、彼女が第二形態になった瞬間からその魅力が失われてしまったのが惜しく、後半のロマンスが陳腐なものに見えてしまった。

ヴァンパイア
最期の聖戦

★★★

 

吸血鬼映画は永遠に滅びることはないだろう。毎度趣向を変えて、様々な吸血鬼映画が作られていくこの映画業界で、ホラー映画界の異端児ジョン・カーペンターが吸血鬼映画のジャンルの領域をさらに広げた。こうなるともう吸血鬼映画にジャンルの境界線などはない。
まずジェームズ・ウッズというくせ者役者の起用が嬉しい。そして木造の古くさい西部劇風のセットをこさえて、まるでサム・ペキンパーのような硬派な渋味で見せる見せる。ヴァンパイアにワイヤーの付いた槍を突き刺し、ワイヤーごと車でヴァンパイアを屋外へと引きずりだし、直射日光で焼き殺そうという大胆不適な戦い方が暴力的で良い。ラストシーン、太陽が照りつける空の下、ヴァンパイアになっちまった相棒を逃がす主人公の男臭さもサム・ペキンパーばりの粋な計らい。私的名作。いっそペキンパーに撮らせたかった。

 

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第113号掲載