週刊シネママガジン作品紹介名作一本アンドロメダ・・・

 宇宙人侵略ものの発想の転換。この映画では、宇宙からの侵略者は目には見えないウィルスである。これに感染したものは、苦しむ間もなく息絶え、血液はさらさらの砂状になる。ウィルスの発生源の町は、まるでキャトル・ミューティレーションにあったような廃墟となる。
 ウィルスを研究すべく派遣された4人の精鋭チームは、砂漠の真ん中で極秘に建てられた地下秘密研究所に送り込まれる。研究所は地上からはるか下にあって、5つの階層に分かれる。下の階層に向かうほど、厳しい滅菌処理を受けることになる。

 オシロスコープの波形だけでサスペンスを描写し、4人のドクターを召集するまでの、スピーディかつ落ち着いた序章の場面展開の熟練した演出力からして、見応えは十分だが、その後に続く廃墟の映像の異様な静寂感は、この映画がハリウッドの決まりきった売れ筋SFとは明らかにタイプの異なるアート映画であることを予感させる。
 監督は「地球の静止する日」「スター・トレック」のロバート・ワイズ、原作は「ウエストワールド」「ジュラシック・パーク」のマイケル・クライトン、特撮は「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」のダグラス・トランブル。SFといえばこの人!というべき3人が集まり、各人の個性が見事に融合した傑作である。僕にとっても好きなSF映画ベスト5に入る特別に思い入れの強い作品だが、この映画が素晴らしいのは、無名の役者だけを起用して、いっさい妥協を許さぬストイックで硬派な作品に仕上げていることだ。宇宙人もでてこなければ、ビビビーという撃ち合いもない。アクションは極力おさえられ、じわりじわりと、厳しい緊張の中にストーリーを進めていく。音楽は異様な電子音楽がときどき使われているだけだが、ワイズは音楽の使うべき場所をきちんと心得ていて、それが静かな場面に突然不気味なムードを与えている。音楽の無いところでは、コンピュータのカタカタという音など、比較的分厚い効果音が使われており、暗めの室内空間を演出するピンポイントの照明と併せて、無菌室の圧迫感を見事に表現している。プロダクション・デザインはSF映画史上屈指の出来栄えで、言うこと無しだ。僕はSFの醍醐味はギミックだと思っているが、この映画はセットそのものが物々しいSFのギミックになっている。登場人物たちが滅菌処理を受ける作業過程や、ウィルスを分析するためのさまざまの研究装置は、SFマニアの心を揺さぶるリアリスティックな仕掛けでいっぱいだ。階層によって部屋の色、制服の色が変わるところは、SFの遊び心にも溢れていると思うし、これは何よりもSFが好きという人にこそ見てもらいたい一本だ。
 


▲地下秘密研究所は5つの区画に分かれている。トンネルのようなセットの造形美術からしてSFの匂いがプンプンする。階層によって色が違うところにも遊び心がある。

「アンドロメダ・・・」DVD

1971年製作 アメリカ・ユニバーサル
製作・監督:ロバート・ワイズ
原作 :マイケル・クライトン
特殊効果:ダグラス・トランブル
音楽:ジル・メレ
2004年2月1日