時代の証言者/市川崑
映画は永久に不滅です

2003年9月5日(金)日本【読売新聞-解説】
映画人が「カツドウ屋」と呼ばれていた時代と違って、僕が映画界に入った1930年代前半には会社組織になり、映画作りという新鮮な職業に誇りを持っていました。
アニメーションから出発し、メロドラマ、社会風刺コメディ、文芸作品、ドキュメンタリー、時代劇といったように、多様なジャンルの映画を作ってきました。「方向性がない」とけなされたこともありますが、僕なりに芯は通してきたつもりです。映画作りとは、真実を見つめ、それを見事な作り物にして、「楽しんで下さい」って提示することだと思っています。
僕は「目に映るものは何でも映画になる」と思っています。黒鉄ヒロシさんの漫画を原作にした2000年公開の「新撰組」では、人物画を平面や立体で動かし、アニメでも実写でもない実験的手法で撮りました。
僕にとって、映画は永久に不滅です。

日本映画界の映画監督たちはツワモノぞろいだ。決して衰えないマムシのような精力。儲けよりも作品を作品として立派に仕上げようとする芸術家の欲求心が良質の日本映画を生んでいる。この姿勢はアメリカの連中には真似できまい。
市川崑は拙者が最も尊敬する監督だ。拙者がアメリカを旅した時に読んだ映画人人名事典には小津安二郎の名前は見あたらなかったが、市川の名前はきちんと記されてあった。まさしく映画に魂をかける男。その作品数と作風の多彩さは、さながら映画界のピカソだな。保守的な職人監督と勘違いされながらも、本当の顔は先進的な芸術作家である。失敗をおそれず、やるからにはやりとおす意志の強さ。いつでも煙草をくわえているところにも男のこだわりがあろう。これこそヤマトダマシイであるぞ。
「映画作りに誇りを持っていた」「映画は永久に不滅」という言葉は、若い監督が発すればこれほど陳腐なものはなく、外交辞令にしか聞こえぬが、市川崑が発すればこそ、説得力もふくれあがり、胸のバクバクが違ってくる。市川崑だけに許された名文句だ。

ちょうど今、市川崑の映画30本が9月2日から10月5日にかけて東京国立近代美術館フィルムセンターで上映中だ。料金は一般500円、高校・大学生・シニア300円、小・中学生100円。気になった方は行くべし。拙者もちょくちょく参るぞ。

 

2003年9月6日