「ヘアー」以来のロック・ミュージカルの大傑作と絶賛されたブロードウェイ・ミュージカル(現在も上演中)の映画化。これはすごく興味のあった映画だ。なんといっても予告編が良かった。ただ1曲歌が流れるだけ。なんの説明もないイメージ戦略のCFだったが、役者たちの姿がすごくかっこよく見えたものだった。しかも監督は子供映画で有名なクリス・コロンバスとのことである。もともとはスパイク・リーかマーティン・スコセッシに依頼する予定だったらしいが、コロンバスもまあニューヨークらしいといえばらしい監督ではある。僕もこれは彼にとっての新境地になるだろうから、ぜひ見なければならないなと思っていた。エイズ(今では誰も口にしなくなった言葉だ)を真っ向から描いている点でも、今時珍しいのではないか。
今回紹介するDVDでは、本編と、「レント」の生みの親であるジョナサンについての2時間のドキュメンタリーが収録されている。このドキュメンタリーが良い。僕なんか本編よりもドキュメンタリーの方にうんと感動してしまった。絶対に本編と併せて見て欲しいものだ。これを見ると、本編の見方もずいぶんと変わってくるだろうから。「レント」は、ジョナサン・ラーソンという人物の事実があってこその本編ということになる。というのも、彼は「レント」の初演を見る矢先に35歳で急死してしまったからだ。ドキュメンタリーでは、彼がおどけながら歌を歌っている映像などが収録されていて、感慨深いものがある。長い下積みがあって、やっと実現した、彼の夢の結晶が「レント」だから、この事実を知らずして本編は楽しめない。「レント」は彼のための映画。事実と本編で1セットなのだと思う。
これは映画だが、映画というよりも、舞台ものという印象を強く植え付けられる。ニューヨークの町並みを立体的に活写する映像は映画的であるが、ほとんどのシーンは歌を利用して見せていくので、舞台劇を見たような気になる。でもそれもいいと思う。それがこの映画の狙いだと思う。映画のストーリーよりも、刺激的なロック音楽の数々と、役者たちの活力に魅力を感じてもらうべきものだと思う。
最も嬉しいのは、舞台版「レント」のオリジナルの俳優たちが、そのまま映画に出ていることだ。人種も性別も年齢も違う8人のメインキャストの内6人はオリジナル。みんな映画の世界では顔も知られていない無名の俳優たちである。それを起用したクリス・コロンバスに拍手を送りたい。顔の知られている有名人が出たら、この映画の魔力も半減しただろう。舞台から出てきたからこそ良かった。10年の時を超えてジョナサンのために映画に出たという思いが伝わってくるからだ。とにもかくにもこの映画は役者たちの顔が脳裏に焼き付く。とくにラストシーンの8ミリフィルムの映像にはじんとくる。見終わった後よりも、翌日になって、ぐっとこみ上げ来るものがある。僕はあの8人の顔が忘れられない。テーマ曲「Seasons
of Love」の歌声が耳から離れない。刹那(せつな)的な感動が永遠に残る。これはとても不思議な感覚だ。この映画を見た日、役者たちが僕の夢の中にも出てきたくらいだ。
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