このタイトルからして、この映画の主人公が、舞妓に並々ならぬ愛情を注いでることは容易に想像できよう。まさに、その通りの内容だ。そのマニアっぷりは、あなたの想像をはるかに上回っている。
これが映画初主演となる阿部サダヲ演じる主人公は舞妓サイトの管理人だ。性格がとにかく強烈。ドン・キホーテよろしく、何も考えずにばく進する。ある意味こんなに純粋な人はいない。チョーがつくほどの熱血漢。熱い。とにかく熱い。お世辞にもいい男とは言えないオタク人間なのだが、この熱さ、なんだか妙にしびれるものがある。
ヒロイン役は柴咲コウ。いきなり最初の登場シーンから、主人公に一目惚れしている。「えぇー!こんな男のどこがいいのかよ!」と最初はそう思ってしまうが、まんまと製作者の作戦にしてやられた。最初は変わった趣味の女だなあと思わせといて、映画を見ているうちに、彼女は実はすごく純情で、本当は普通の乙女だとわかり、気がつけばいつの間にか彼女のことがとても愛おしく見えてくる。
そこに入ってくるのが、堤真一演じるサイト荒らしだ。これが生まれながらの天才。何をやらせてもトップに立つ。そこが主人公は許せない。サイト荒らしが野球界で成功すれば、主人公も野球選手になって対抗する。サイト荒らしが映画スターになれば、主人公も映画スターになって対抗する。この2人のせめぎあいが面白い。この主人公、実はすんげえやるじゃねえかと思わせる。バカと天才は紙一重とはよくいったものだが、まさにこれがそうだ。
僕自身も、かなり重度のオタクなので、オタクの気持ちはわかるつもりだ。僕はこの映画の主人公が大好きになった。役どころがサイトの管理人というところが、僕とも共通していて、ひとごとじゃなく興味深く見せてもらえた。オタクでなくとも、この主人公は、きっと好きになるのではないだろうか。ずうずうしい奴だけど憎めない。好きにならずにはいられない男。自分の目的を果たすためなら、どんなに過酷な過程も乗り越える。舞妓はんと野球拳するためなら、たとえ火の中水の底。目的一点だけを見つめているから、まわりのことがまったく見えない。だから自分がどんどんビッグになっても自分自身ではまったく気にもしていない。まったくバカだが、どんなものにもぶつかっていくやる気とド根性に惚れる。破天荒なことをやってことごとく成功していく様が見ていて大変痛快で、元気をわけられる。この映画は、この主人公の人間的な魅力が一番の見どころといえる。
この元気すぎる主人公のテンポに乗せられて、勢い任せに映画が突き進んでいく点は、どたばた喜劇みたいな感じであるが、しかし、この映画、ふざけたB級映画に終始するかと思いきや、実に丹念に細かいところまで描き込まれた真剣勝負の力作となっている。京都の世界もきちんと描かれており、歌で説明される「一見さんお断り」など、お座敷遊びについての数々のうんちくもなるほどと言わせる内容だ。それもそのはず、脚本は『ピンポン』、『木更津キャッツアイ』の宮藤官九郎である。コメディとシリアスの境目がものすごく曖昧で、その得もしれぬブレンド感が心地よい感動を呼ぶ。阿部サダヲと柴咲コウがすれ違うシーンが最高だ。見終わった後も心に残る。
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