週刊シネママガジン作品紹介B級映画ラボザルツブルクをたずねて

 この作品は、映画「サウンド・オブ・ミュージック」に子役で出演することになったシャーミアン・カー(当時21歳)が、オーストリアはザルツブルクの町を案内する記録映画である。「サウンド・オブ・ミュージック」の撮影風景も収録してあり、同作のメイキング映画として見るのも楽しい。
 シャーミアン・カーの心境は、彼女自身のナレーションで語られていく。「私は女優になるのよ」「信じられないわ」などなど、セリフだけを聞いていると、彼女が女優として巣立っていくまでの密着取材映画のようにも受け取れる。
 僕がこんな映画をここで紹介する気になったのは、この映画が、おかしなことに、製作目的というものが、いつまでたっても見えてこないからである。ザルツブルクの観光映画としては私的すぎるし、「サウンド・オブ・ミュージック」のメイキングとしては物足りない。かといって、シャーミアン・カーの独り立ち物語かと思うと、そうでもない。だったら何? それなのに、なぜだかこの作品には訴えかけるものがあるのである。こんなドキュメンタリーは滅多なことではお目にかかれない。他人に見てもらうために作った映画というよりは、まるで個人的な趣味で作ったホームムービーのようである。ザルツブルクの芸術的な町並み・人々をスケッチ風に捉えたカメラは、どこぞの観光ビデオのカメラよりもはるかにおもしろい。
 そして、舌足らずながらも、胸がワクワクしている様子が伝わってくるシャーミアン・カーの無邪気なナレーションが、この作品を支えている。もし、ジュリー・アンドリュースが本作の案内役を務めていたとしたら、このような自由奔放な作品にはならなかったはずだ。とにかくこの無邪気さが大事である。シャーミアンは掘り出し物である。とても澄んだ青い目。服装もオシャレで、顔もアイドル級だ。売れなかったのが理解できない。
 以前、僕はキューブリックの娘さんが「シャイニング」の撮影風景をフィルムに収めて、一本の記録映画にしたものを見たことがあったが、その時もこれと同じように感銘を受けたことを覚えている。ただ自由気ままにカメラを回しており、そこから職人気質は微塵も感じられない。僕は、自由に撮影することの素晴らしさをトリュフォーから学んだが、この作品でも再び教えられた。

 

ザルツブルクをたずねて
原題:Salzburg Sight and Sound
製作年:1964年
製作国:アメリカ(20世紀FOX)
監督:F・J・スピーカー
音楽:モーツァルト(魔笛)
上映時間:13分

映画製作のドキュメンタリー
「ディズニー撮影所御案内」
「ある映画監督の生涯」
「風と共に去りぬ 幻のメイキング」
2003年8月11日