週刊シネママガジン作品紹介B級映画ラボシャドウ・オブ・ヴァンパイア

 映画ファンともなると、映画撮影現場の裏側を描いた作品にはよだれがでてしまう。本作はドイツのサイレント時代の巨匠F・W・ムルナウが「吸血鬼ノスフェラトゥ」を完成させるまでのドラマである。「ノスフェラトゥ」は映画ファンならご存じのように、ドイツ映画史上のナンバー1と言われている大古典である。「あの名作にはある秘密があった。吸血鬼役で雇った俳優マックス・シュレックは、本物の吸血鬼だったのだ」という突拍子もないアイデアから、別のホラー映画が生まれたわけだ。登場人物は皆実在人物であるが、ストーリーはいいようにでっち上げられている。ノンフィクションとフィクションをミクスするそのさじ加減が絶妙で、このシーンはこれこれこうで、このこうやって撮ったという具合に、うまく辻褄を合わせ、ムルナウの名作にちゃんとリンクさせている。どれが事実でどれが虚構か。その知恵の輪を発見することが、作品を鑑賞するためのポイントである。エンディングの吸血鬼が死ぬシーンは、実際に吸血鬼が死んでいくところを映像に収めものだという安易なこじつけも、「吸血鬼ノスフェラトゥ」がいかにしてドイツ映画の最高傑作になれたのか、という観客の興味にも絡めてあるわけで、わかっていながらも楽しめるのである。
 当時の映画撮影の時代背景を知る上でも面白い。カメラは手動で回しているし、監督は撮影中でも口で演技指導をやっている。ある場面では「ムルナウはエイゼンシュタイン、グリフィスよりも偉大な監督だ」とうそぶくシーンもあったが、実際はエイゼンシュタインはまだこの時点ではデビューしていないため、これもでっちあげの台詞である。もともと嘘を本当のように描いているだけの作品だから、ここにあえてエイゼンシュタインの名前をあげていることに意義があるのだ。

 

原題:Shadow of the Vampire
製作年:2000年
製作国:アメリカ
制作:ニコラス・ケイジ、ジェフ・レヴァイン
監督:E・エリアス・マーハイジ
出演:ジョン・マルコヴィッチ、ウド・キアー、ウィレム・デフォー
上映時間:92分
DVD


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2003年6月29日