川本喜八郎は、世界的にも有名なチェコのアニメーション監督イジー・トルンカに師事し、日本の人形アニメーションの基盤を築いた監督である。NHKの人形劇「三国志」でもすっかり有名になって、現在は日本アニメーション協会の会長を務めている。川本映画の特徴は、日本古来の和を意識していること。それでいて、どの作品も世界発信を意識した意欲作になっている。「犬儒戯画」始め西洋風のアニメーション作品も作っているが、やはり人気が高いのは「道成寺」「火宅」などといった和製怪談の美学を追究した人形アニメーション作品である。中でも「道成寺」は傑作との呼び声が高く、日本のアニメーション映画の中でも国際的に認められている10本の指に入る1本であろう。キャラクターのトルンカ譲りの見事な動きと表情は、一時期ライブ・アクションかと誤解されていたこともあり、認められるまでに時間を要したようである。世界中が日本アニメーション・ブームのまっただ中にある今では、川本喜八郎映画の評価も昔以上に高まっているように思える。
川本映画で、僕が好きな作品は「鬼」と「不射之射」である。ここで紹介する「鬼」は川本監督が得意とする和製怪談ものの初めての一遍だが、ブラックの背景に、簡略化された木々のセット。三味線と尺八だけしか使わない音楽。後は人形の動きだけで見せきった作品だ。二人の兄弟が、三味線の旋律に歩調を合わせて山を登っていくときの動きのユーモア。まるでミュージカルである。そこに突如鬼が現れ、一戦を交えるが、ここも三味線と人形の動作が完全同期してスリリングである。
川本監督は、「道成寺」あたりから、和の格調美を追究するようになるのだが、「鬼」では純粋にアニメーションの動きのおもしろさを追求していたように思える。一個人の野心作として、この見応えは確かだ。
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