死体愛好家の半生を描く、モラルに反した映画で、本国ドイツではフィルムを焼却するよう命じられ、日本では隠していたフィルムを再編集してビデオ発売した曰(いわ)く付きの作品。そこら辺からもかなり大袈裟すぎるのだが、たしかにこの映画はグロく、さすがの僕も掲載を躊躇したほどである。どんな映画でも見るのが僕のモットーゆえ、思い切って取り上げてみたが、おすすめはしない。僕にとっては、二度と見たくない映画の一本である。
あくまでも不道徳の世界を描いたヒューマン・ドラマなので、これは決してホラーではない。そこを誤解している人が多く、これを見て「怖かった」とか「怖くなかった」ということを問題にするのは間違っている。フィルム焼却命令の事実とかパッケージ・アートが、ホラーという誤解を刷り込んでいるのだろう。とはいえ、その生理的不愉快さこそ、ホラーそのものであり、これを見ようと決意するまでの道のりが大事だとの考えもある。僕の場合、不倫映画や同性愛映画が氾らんする今日では、この映画もそうした不道徳映画と同等に見るべきだと思うのである。監督のブットゲレイトはこれをあたかも格調高いアート映画として仕立て上げた。最初のカメラワークから傑作の予感あり。交通事故の映像がなまなましくて気持ち悪いが、この雰囲気描写、カメラワーク、切ない音楽は見事なものである。ストーリーもよくできている。
死体愛好家の男が、何かにふっきれて、草原をかけまわるシーンのやたらと清々しい演出にも大きなショックを受けた。電子オルガンみたいな楽器が奏でる音楽がまたいい。
僕が一番気持ち悪かったのは、死体の目玉をうずらの卵のようにしゃぶるシーン。これがトラウマになって、3日もろくな食事ができなかった。これが最低映画といわれ、いつまでも不愉快さを残す理由は、ごく普通の食事シーンがあること。ジューシーなビフテキをフライパンで焼き、食すシーンのあまりの普通さ。この罪は大きく、僕は肉料理を見るたびに死体を思い出してしまうようになった。この記憶、消したくても消せない。なんてこったい。
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