タランティーノはかなりの凝り性に違いない。自分が気に入ったものは、他人にも見せびらかさなければ気が済まないヤバイ病気である。タランティーノの作品はその勢いが糧になっている。それが自己満足に終わらないのがタランティーノのすごさだった。趣味を形にする情熱と、物事を整理する冷静な判断力のバランスがとれているから、「パルプ・フィクション」はおもしろかった。あのころは斬新さばかりが注目されていた感があったが、「キル・ビル」までくると、なんだかインチキくさくなってきた。
 多趣味なため、自作になんでもかんでも詰め込まなければ気が済まず、欲張りすぎて一本に収まりきれなかったこの映画。しっちゃかめっちゃかなシーンの材料をそれらしくつないでみせたのはデ・パルマゆずりか、インチキながらもまとまっているのだが、自分では無駄ややりすぎに気づかない。タランティーノはどうしてもお気に入りのチャンバラ・シーンをカットすることができなかった(一般に言えば、あのチャンバラはどう考えても長い)。凝り性な人間のやることだ。名声を手にした今、その欲張り根性はエスカレートし、作品をあえて群像劇にして自分好みのキャラクターばかりを登場させ、自分の惚れ込んだ音楽をガンガン流し、さらにジャパニメーションを盛り込むほどのこだわりよう。それがなぜだか僕の魂を揺さぶる。大音量のフラメンコをバックに決闘するシーンでは、まんまとその情熱にのせられて興奮してしまった。
 タランティーノの映画がやたらとかっこいいのは、彼が楽しそうに映画を作っているのが伝わるからなのかもしれない。日本文化がどういう風に描かれていようが、作者の「好き」が伝わるだけで充分楽しいではないか。どうせフィクションなんだから、ししおどしの音が間違っていようが、気にするな。ワンカットワンカットにかける情熱を見てあげようではないか。
 

原題:Kill Bill: Volume 1
製作年:2003年
製作国:アメリカ
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、千葉真一
上映時間:113分
DVD

一本の作品を二回以上に分けて発表した映画
「人間の條件」(1959年/日本)
「愛と宿命の泉」(1986年/仏)
「ロード・オブ・ザ・リング」(2001年/米)

2003年12月15日