(ハル)

 なぜB級映画ラボのコーナーにこれを取り上げたのか。それはこれがアイデア勝負の作品だからだ。インディーズにしろプロにしろ、アイデア次第では、これほどの傑作ができるという見本である。
 テーマはパソコン通信による恋愛。これは今で言うインターネットのeメールやチャットに通じているので、今パソコンを使っているあなたにもピッタリの作品である。メールでのやりとりはあなたも経験者だろうし、見も知らぬ人とメールで仲良くなったという人もいると思う。オフ会をした人もいると思うし、メールでトラブルを起こした人もいると思う。「週刊シネママガジン」の管理人ってどういう人だろう?と思っている人もいるかも(ありがとう)。そういうパソコン族にとっては、この映画はとてもリアルなものに思えるだろう。この手のタイプの恋愛ものは今時らしいし、それでいて他の映画ではなかなか見られない盲点だった。意外な展開をもってきて意表をつくところなど、そのドラマ性も高く評価したいが、落ち着いた感動を残すラスト・シーンなど、とても良い気分にさせられる映画だ。
 メール上だけでの男女の心理描写が見どころである。これこれこう言われたとき、人はどういう気持ちになるかという心理を、物静かなタッチでスケッチ風に、ピュアに描いている。面白いのは、登場人物が時々嘘をつくことである。時には本音で語り合い、時には嘘をつく。それは見栄であったり、励ましであったり、様々だ。人間、嘘も大事である。映像にそのまま描かれている登場人物の私生活の本当の映像と、画面に映し出されるパソコンの文字の嘘の言葉。この真実と嘘の対比が見事なドラマ効果を上げている。
 主人公の2人は素晴らしいの一言だ。どこにでもいそうな平凡な雰囲気があって、それでいて何かひきつけられるものを持っている。内野聖陽はすごくいい男だし、どこか寂しげな深津絵里も可愛い。このころはポッチャリしてたんだなあ。僕はこれを見ながら「うんうん」と何度も納得しながら、つい「そうだよなあ」と画面に向かってつぶやいてしまった。こうやって観客を納得させる心理描写こそ、僕は恋愛映画の醍醐味だと思っている。
 

製作年:1995年
製作国:日本
監督:森田芳光
主題歌:THE BOOM
出演:深津絵里、内野聖陽、山崎直子、竹下宏太郎、鶴久政治、戸田菜穂
上映時間:118分
「(ハル)」DVD

文通・メール交換の物語
「桃色の店」(40年/米)
「足ながおじさん」(55年/米)
「ユー・ガット・メール」(99年/米)
2005年2月21日