週刊シネママガジン作品紹介B級映画ラボエル・マリアッチ

 これを初めて見たときは、7000ドルでどうやってこんなによくできた映画が作れるのかと思った。撮影する前から、じっくりと構想を練って絵コンテを書いたことがわかる。ストーリーもなかなかよくできているが、もっと感心させられるのは編集である。映像が綺麗とか汚いとかの問題ではなく、編集のつなげ方・見せ方にセンスがある。編集だけでここまで観客を虜にする作品は滅多にあるまい。
 編集といえば、巨匠エイゼンシュタインはモンタージュ理論を提唱して観客をアッと驚かせたが、あえて新しい技法を試みたエイゼンシュタインのそれとは違い、本作の編集は必然的で、ごく基礎的な技法を駆使している。カットのひとつひとつは短いが、あくまでカットとカットのつなぎめを意識させないようにつなげており、これはマッチカット、カットアウェイという基本的な技法が、わかりやすい形で実施された理想的な編集のお手本である。
 メジャー映画の場合、作りがしっかりしているため、編集を意識させる余地などまるでないが、本作は素人レベルなので、どういう風に撮ったのか手に取るように見えてくるから面白い。もちろん下手な編集もある。俳優の配置がいくぶんか説明不足で、場面によっては、部屋のどこに誰が座っているのか、わかりにくいところもあった。これは許容範囲内なので、たいした問題ではない。下手なところはそれはそれで興味深いのだ。
 ところで、役者は一人を除けば全員ヒスパニック系である。舞台はメキシコで、おそらくはオールロケだろう。いかにもラテン的なムードを全編に醸し出している。言うなればメキシコであることそのものが、本作のテイストであり、見所である。
 僕はこれをみて血みどろで荒々しい作風のマカロニ・ウエスタンを思い出した。見た目も似ていると思うが、ムード作りを何よりも重視し、作家スピリッツを最後まで貫き通しているところがマカロニ・ウエスタンに通じている。だからこそ本作は渋く、熱い。
 これだけ要領よく映画を製作したロバート・ロドリゲス(当時はロベルト・ロドリゲスと表記した)である。きっと将来はビッグになるだろうと期待していたが、メジャー入りするなり、ハリウッドの体制にまんまと動かされてしまった。どちらにしても面白いことには代わりはないのだが、「エル・マリアッチ」でみせたハングリー精神はいつまでも忘れないでもらいたいものだ。
 

エル・マリアッチ
原題:El Mariachi
製作年:1992年
製作国:アメリカ
監督:ロバート・ロドリゲス
上映時間:80分
DVD

ロバート・ロドリゲス監督作品
「デスペラード」(95年/コロンビア)
「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(96年/米)
「スパイキッズ」(01年/米)
2003年8月16日