カルト・ムーヴィーという言葉が初めて使われた作品は、恐らくこれではないだろうか。もちろん、この映画以前にも「フリークス」など、カルト・ムーヴィーらしきカルト・ムーヴィーはあったが、マニア受けを狙ったようなカルト映画はこれが最初である。アレハンドロ・ホドロフスキーは監督・脚本・主演に加え、音楽や衣装まで手がけているように、相当な独りよがり映画になっていることは間違いないのだが、それなのに、この映画のワンシーンワンシーンは、見るものの胸を打ち、鮮烈なビジョンを焼き付ける。
 僕はアレハンドロ・ホドロフスキーについて語るとき、思想という面で、当時のロック音楽を抜きには語れないと思う。当時のロック音楽というのは、そもそも演奏者たちの独りよがりの作曲というべきものだった。若者ならではの、社会のルールにとらわれない音楽が、人々の心を掴んだのだ。アレハンドロ・ホドロフスキーの映画も同じようなことだ。彼の映画は完全ともいえるほど、彼の独善映画である。そのため、ルールにとらわれない作風が多く見られ、中にはタブーかと思われる内容も見られる。その意味ではフランスのヌーベルバーグにも通じるわけだが、ヌーベルバーグほど洗練されたものではなく、ホドロフスキーの映画はもっと観念的である。また、70年当時に流行したサイケデリック・カルチャーが見え隠れしている。ローリング・ストーンズビートルズのマネージャーとして知られるアレン・クラインがプロデュースしている点からもロックとは切り離せないだろう。
 表向きは「スパゲティ・ウエスタン」ということになっているが、描かれている出来事はどれも常識破りである。中には聖書の引用とも思われるシンボリックな映像も見られ、深読みすれば色々な意味が考えられるが、まずは音楽を楽しむように、直観で映像のひとつひとつのパワーに圧倒されてもらいたい。
 舞台は何もないような砂漠である。その砂漠に、ぽつんと敵が立っているところが面白い。どうやって生活しているのだろうと思うが、そんな理屈はこの映画ではどうでもいいのである。だから砂漠に突如現れた岩を撃つと、そこから水がわき出たりもする。前半は、自らを神と名乗るエルトポが砂漠に住む凄腕のガンマン4人を1人ずつやっつけていく話だが、この4人が全員おかしな超能力をもっていて、例えば昆虫採集用の網で弾丸をはじき飛ばす老人などが出てきたりする。後半は、エルトポが山に閉じこめられた奇形の人たちを自由にするため、大道芸人となり、お金を稼いで山にトンネルを掘る話。かつての弟子が神父となってエルトポの前に現れるが、この弟子の描き方がのんびりしていて僕的には気に入った。
 この映画では、全編が常識破りなアイデアで埋め尽くされているが、それらがきちんと1つのストーリーにつなぎ合わさっている点が驚きである。ちょっと胸焼けするかもしれないが、映像という刺激に溢れた作品だ。
 

エル・トポ
原題:El Topo
製作年:1970年
製作国:アメリカ・メキシコ
監督・脚本・音楽・衣装・美術・出演:アレハンドロ・ホドロフスキー
製作:アレン・クライン
上映時間:126分
「エル・トポ」DVD
2005年7月4日