週刊シネママガジン作品紹介B級映画ラボエメラルド・カウボーイ

 おそらく世界で最も治安の悪い国であろう南米コロンビアにロマンを求めた一人の日本人がいた。その名は早田英志。世界最大のエメラルドの産地で、エメラルド王となった人物である。今世界に輸出されているエメラルドのほとんどは早田氏の手を経たものだ。
 早田氏は常に命を狙われており、10人のボディガードをつけている。今までに何度もゲリラに殺されそうになったが、それでも早田氏はコロンビアのエメラルド・ゾーンを愛してやまない。
 そんな早田氏の波瀾万丈の人生が一本の伝記映画になった。しかもこれは、早田氏本人が自らメガホンを取り、自分のポケットマネーで作った究極のオレ映画である。何億という製作費なんぞ、早田氏にとってはほんのはした金だ。

 これが意外にも凝った骨太のアクション映画になっていて、きちんと映画の作り方を勉強している感じで、なかなか面白かった。全米で評判になったのもわからないでもない。
 二部構成になっていて、第1部は早田氏の青年時代の活躍を小粋に描き、第2部は早田氏本人が自分自身を演じ、現在のエメラルド・ゾーンの実態を描く。実録ものの極道映画のごとく、どぎついコントラストで描く銃撃シーンは鬼気迫るものがあり、ちょっと粗削りなところがかえって荒々しい男のドラマになった。

 僕は第1部で日本人らしからぬヒスパニック系のハンサムな兄ちゃんが早田氏の若い頃の役を演じているところが気に入った。日本人が日本人を演じてもつまらないが、コロンビア人が日本人を演じれば当然受けが良いに決まっている。そこら辺の見極めがうまい。

 これが一部の起業家たちの間で根強い人気があるのは、早田氏の情熱ゆえだろう。とにかく早田氏が熱い。本人自ら演じた乱闘シーンなど、その怒った形相はかなりホンモノだ。作品の中で自分をサムライと呼ばせるナルシシストぶりも嫌味になっていない。また、早田氏は声が良い。よく通っていて、部下を従わせるにふさわしい声である。この声で「私はコロンビアが好きだ」というところは結構じんとさせられる。

 面白いのは、早田氏はこの映画のラストで自分を殺してることだ。配給のアップリンクさんいわく、ゲリラ対策のために死んだと思わせるように作っているのだという。そこがまた銃撃シーンの迫力を裏付ける。
 

原題:Emerald Cowboy
製作年:2002年
製作国:コロンビア
製作総指揮・監督・脚本・出演:早田英志
上映時間:123分
2005年5月15日