だいぶ前、僕は「ロード・オブ・ザ・リング」を絶賛した。 本当のことを言うと、不満はかなりあったのだが、あの時は、剣と魔法のファンタジー映画で、あれほどよく出来たものを見たことがなかったので、オタク心が揺れ動いて、つい高得点をつけた次第である。
 僕が「ロード」を見てイヤだと思ったのは、まるでB級映画のようなクサい演出が鼻についたからだ。フロドがトロルの槍に刺されるシーンなど、大して重要でもないところで、どうしていちいちスローモーションにしなくちゃいけないのかと、一人でブツブツ言っていたものだ。指輪の誘惑に負けた男が、振り向いてニヤリと笑うところもわざとらしく写していたし、人間とエルフのロマンスも鼻をつまみたくなるほどクサくて好きになれなかった。しかし「ロード」はそういった不満も吹き飛ばすほど痛快作だったから、僕は評価したのだが、つまりはこれが「装飾の映画」だったから受け入れ易かったのだろう。各シーンをそれらしく飾り付け、実際よりも大袈裟に、派手に見せる。それをジャクソンの映画作りの神髄だとするなら、「ブレインデッド」は装飾映画のひとつの到達点であった。
 「ブレインデッド」は「バタリアン」系のコミカル・スプラッターである。観客を怖がらせようという意思は皆目感じられず、むしろ喜ばせようとしている。作品からにじみ出る熱意は、イコール「どれだけ装飾するか」という挑戦心である。手が切り落とされるのは序の口。上半身をむしり取り、大腸がこぼれ落ち、中からゲロがわき出る。見せるからにはとことん飾って見せなきゃ気が済まないスタンスだ。とはいってもギミックのオモシロさは確かなもの。クライマックスでは、屋敷中を手と足の断片、内蔵、ゲロ、血のりだらけでぐちゃぐちゃにして、最後には人間を巨大なバルーンの化け物にしてしまう大胆なる発想がたまらない。
 一番面白いのは、主人公のお人好しぶり。ゾンビに襲われるかもしれないのに、ゾンビ達にランチをご馳走したり(圧巻!)、赤ちゃんのゾンビの面倒を見て、散歩に連れて行ったりする。このなんともグロッキーなブラック・ユーモア。スプラッター・マニアがこれを聖典と崇めているのがわかるような気がする問題作だ。

 

ブレインデッド
原題:Braindead
製作年:1992年
製作国:ニュージーランド
監督:ピーター・ジャクソン
上映時間:104分
DVD

あの監督も昔は悪趣味だった・・・
「キャット・ピープルの呪い」(ロバート・ワイズ)
「死霊のはらわた」(サム・ライミ)
「殺人魚フライングキラー」(ジェームズ・キャメロン)

2003年9月7日