低予算のホラー映画は、製作者が自腹を切って撮影するようなものが少なくなく、そうなるとどうしても陳腐で見え透いた映画ばかりが出来てしまう嫌いがあった。舞台俳優・舞台演出家がステージの上で次々と殺されていく「アクエリアス」は、自腹を切ったところでは他のホラー映画と共通するが、監督がイタリアの鬼才ダリオ・アルジェントの愛弟子ミケーレ・ソアビとあって、実にひねりのきいた、まともな作品になっている。「B級ホラー映画は怖くない」のジンクスを覆す、本気で怖い一本といってよい。密室、暗闇、見えざる敵、血、女の悲鳴というホラーには欠かせないモチーフがそのまま活かされ、あくまで古典的な手法で怖がらせているところにも共感が得られるが、音楽には工夫も見られ、ソアビの野心をくみとることができる。イタリア映画は元来どれも音楽がいいが、「アクエリアス」ではビートのきいたダンス・ミュージックを使用しており、アルジェント譲りの異様な恐怖心をかきたてている。
 要点は、殺人鬼が大きなフクロウのマスクをかぶっていることである。これを滑稽という者もいるが、僕はこれほど怖いものはないと思った。フクロウのマスクは殺人鬼がこさえたものではなく、ステージ衣装として舞台俳優たちが作ったもので、毎日彼らが使っていたものである。これが殺人鬼に変貌するとは、まったく予期せぬ出来事である。小道具が次々と凶器へと変わり、舞台装置が恐怖のステージと化す手並みは見事としかいえない。
 フクロウのマスクがこれほど怖いもうひとつの理由として、中の人間がどこを見ているかわからないこともあげられる。殺人鬼がただじーっと座っているだけのシーンがあるが、これは、もしかしたらマスクの奥からこちらを見ているのではないかという恐怖感をあおり、心臓バクバクものである。
 王道だが、それが許せる愛くるしい一本だ。
 

原題:Aquarius
製作年:1986年
製作国:イタリア
監督:ミケーレ・ソアビ
上映時間:91分
DVD

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2004年2月8日